グリーンランドの歴史とは?先住民・ヴァイキングからアメリカ購入問題まで(グリーンランドPart1)

近年、「アメリカがグリーンランドを購入しようとした」というニュースを目にした方も多いのではないでしょうか。

氷に覆われた巨大な島が、なぜ突然、世界の大国からこれほど注目される存在になったのか――。

実はグリーンランドは、単なる寒冷地ではありません。
そこは、数千年前から先住民が極限環境に適応して築いた文明と、10世紀に到来したヴァイキングが持ち込んだヨーロッパ文明が交差し、そして一方が消滅していったともいえる土地です。

さらに21世紀の現在、気候変動による氷床融解、レアアースや天然資源の存在、北極航路の開通可能性、そして米中露の軍事的思惑が重なり、グリーンランドは再び世界史の中心へと引き戻されています。

本記事では、グリーンランドが古代からどのような歴史を歩み、なぜ現代の地政学の焦点になっているのかを、時系列でわかりやすく解説していきます。

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グリーンランドの歴史(古代〜15世紀)

― 氷の島で入れ替わった“二つの文明” ―

グリーンランドという名前から、多くの人は「氷に覆われた孤島」を思い浮かべます。

しかしこの島の歴史は、人類が極限環境へ適応するために築いた文明と、同じ環境に挑みながら適応しきれずに消えていった文明が、時代の中で交差した国です。

古代から15世紀までを時系列でたどると、グリーンランド史の中心には「先住民(イヌイット祖先)」と「北欧バイキング(ノース人)」という二つの民族が関係しています。

紀元前2500年頃:最初の人類到達(古イヌイットの始まり)


グリーンランドに人類が初めて到達したのは、およそ4500年前、紀元前2500年頃です。

彼らはカナダ北部から北極圏を経て移動してきた人々で、考古学的には「古イヌイット(パレオ・エスキモー)」と総称される。彼らが直面したのは、人類史の中でも最上級の過酷さを持つ環境でした。。グリーンランドの大半は氷床に覆われ、樹木はほとんど育たず、農耕も牧畜も成立しない。つまり、食料を「育てる」ことができず、「狩る・採る」だけで生きるしかない環境でした。

民族が集団が拡大化するには、下記の条件が必要です(参考文献参照)。

  1. 安定した余剰食料の確保(農業・牧畜・灌漑など)
  2. 定住可能な自然環境(気候が比較的安定・居住地を固定できる)
  3. 十分な人口規模・人口密度(分業や市場が成立する人数)
  4. 交通・交易ネットワークの存在(河川・海・道路など)
  5. 生産・貯蔵・建築などの技術基盤
  6. 統治・法・宗教などの社会制度(秩序維持の仕組み)
  7. 環境リスクが中程度であること(厳しすぎず、豊かすぎない)

このことから、集団は大規模にはならず、数家族単位の小さな共同体が基本となりました。

そのため王や国家、文字による法の体系は生まれない代わりに、合意形成と協力が生存戦略の中心となった。極地では、争いで仲間を失うことは死に直結するため、対立を最小化し共同体を維持することが合理的だったからです。

彼らの食生活は現代人の感覚とは真逆で、炭水化物はごく少なく、主な栄養源は動物性脂肪とタンパク質でした。アザラシ、セイウチ、魚、トナカイなどを狩り、内臓や脂肪も含めて利用する。加熱調理が常にできるとは限らないため、生食や半生の摂取も多かったそうです。

結果として、生肉や内臓からビタミン類を確保しやすく、極地で想像されがちな「栄養欠乏」とは少し違う、独特に成立した“高栄養密度の食事”が形成されていきました。

紀元前500年頃〜13世紀:ドーセット文化の長期存続

古イヌイットの系統は長い時間をかけて変化し、紀元前500年頃からは「ドーセット文化」と呼ばれる文化が広く定着します。

ドーセット文化が特徴的なのは、その生活が氷縁(海氷と海の境界)の生態系に強く依存していた点です。

アザラシ猟を中心に、季節や氷の状態に合わせて移動しながら暮らす。規模は小さく、技術も比較的保守的だったとされ、後に登場するトゥーレ文化に比べると、犬ぞりやカヤック、組織的な大型クジラ猟などは発達していなかったと考えられています。

それでもドーセット文化は約1500年という長い期間を生き延びました。これは「失われた弱い文明」ではなく、当時の環境条件に対して高度に最適化された文明といえます。

ただし、最適化が進むほど“前提条件が変わったときの脆さ”もでてきます。

氷や海獣資源の分布が変動したとき、その変化に追随するための技術と社会の基盤が必要になりますが、ドーセット文化はまさにその転換点で歴史の大きな波に飲み込まれることになりました。

10世紀(982〜986年):エリック・ザ・レッドと北欧人の入植

一方、北大西洋では別の動きが起きていました。スカンディナビア世界から始まったバイキングの拡張は、9世紀にアイスランドへ到達し、10世紀にはさらに西へ向かうことになりました。

ここで登場するのがエリック・ザ・レッド(赤毛のエリック)です。

彼はアイスランド社会で殺人などの争いを起こし、追放処分を受けた人物として語られます。追放は、当時の社会において“生存圏からの排除”を意味します。

つまり彼にとって西への航海は冒険というより、追放されたことによる再出発だったのです。

982年、エリックは未知の土地を探索し、グリーンランド南西部沿岸に到達しました。

ここで重要なのは、彼が入植した地域が当時ほぼ無人、あるいは少なくとも“人口密集地ではなかった”ということです。

大規模な先住民社会の中心地を奪ったというより、生活可能な沿岸部の空白に近い領域へ入った形だった可能性が高いとされています。

986年、エリックは再度アイスランドに戻って移民を募集し、複数の船団が渡航することになりました。

もちろん当時の航海技術ではすべてが到達したわけではありませんでしたが、数百人規模の北欧人が定住を始めることになりました。

彼はこの土地に「Green land(緑の土地)」という名を与えました。

これは、沿岸部には夏になると草地が広がり、家畜の放牧が可能だったことが一つの理由として挙げられています。

しかし最大の理由は明快で、「人が来たくなる名前」にするための宣伝でした。

つまりグリーンランドは、地理的現実とマーケティングが混ざり合って名付けられた土地なんです。

11〜12世紀:北欧植民地の繁栄(象牙交易と農牧社会)

北欧人は南西部に複数の入植地を作り、東方植民地・西方植民地といった集落群が形成されました。

彼らは農業と牧畜を基盤とし、教会制度も整えたのです。

中世ヨーロッパ世界に組み込まれることで、グリーンランドは「辺境」ではあっても孤立した世界ではなかった。象徴的なのがセイウチの牙(象牙)を中心とする交易である。象牙は当時、装飾品や宗教的工芸品に価値があり、グリーンランドはそれを供給するようになりました。

ただし、この繁栄は“ある条件”に依存していた。すなわち、航路が確保できること、そして交易品に需要があること。

自然環境が安定し、海氷の状態が航海を妨げず、ヨーロッパ側がグリーンランド産の物資を必要とする限り、北欧植民地は成立していたのです。しかしこの「成立条件」は、後に崩れることになりました。

13世紀:トゥーレ文化の出現(文明交代の始まり)

13世紀頃、グリーンランド史を決定的に変える動きが起こります。

ベーリング海峡方面を起点とするトゥーレ文化(現代イヌイットの直接祖先)が、カナダ北極圏を横断してグリーンランドへ拡大してきました。

背景には複数の要因が重なっていたと考えられています。

当時、気候変動によって海氷や海獣の分布が変わり、ホッキョククジラなど大型鯨類の移動も影響していました。

トゥーレ文化は組織的なクジラ猟、犬ぞり、カヤック、大規模貯蔵、広域交易網などを備え、食料供給の安定性と移動力で集団として優勢でした。

この結果、広がっていたドーセット文化は、戦争で一気に滅ぼされたというより、資源と技術の格差によって吸収・衰退し、最終的に姿を消していった可能性が高いと考えられます。

文明の交代は、政治的征服よりも、生態系と技術の相性によって決まった面が大きいです。

12〜14世紀:北欧人と先住民(イヌイット)の接触

北欧人の入植当初、接触は限定的だったが、トゥーレ文化の拡大によって両者は同じ地域に現れるようになりました。

交易は存在したと考えられ、北欧側の鉄器や木材が先住民側に渡り、先住民側の毛皮や海獣資源が北欧人の生活に影響を与えた可能性が歴史からわかっています。

一方で、文化の本格的融合は起きにくかったともされています。
宗教も言語も生活様式も異なり、相互理解のコストが高すぎたからです。小規模な衝突の記録は語られるが、大規模戦争や虐殺を示す決定的な痕跡は一般には発見されていません。

そして重要なのは、北欧人が先住民の技術(犬ぞり海獣猟寒冷適応の道具)を十分に取り入れなかった点にあります。北欧人は農牧社会の枠組みを維持しようとし、それが長期的には適応力の弱さにつながることになりました。

14世紀後半〜15世紀:北欧植民地の衰退と消滅

14世紀後半から15世紀にかけて、北欧植民地は段階的に衰退し、ついに社会として消滅する一途をたどりました。

理由は、いくつかあります。

・小氷期に向かう寒冷化で牧草が育ちにくくなった
・家畜が維持できなくなった
・気候の変化により航海も困難になった

ことがが挙げられています。
海氷の増加は外部との交易を断ち、象牙需要の変化は収入を減らしていき、鉄や木材などの補給も止まる。集団での経済状況が悪化することで、生活基盤は少しずつ悪化していきました。

結果として、多くは餓死や病死に追い込まれ、一部は帰還し、また一部は先住民社会に吸収されたとされています。

いずれにせよ、15世紀までに北欧人社会は連続性を失い、“グリーンランドのヨーロッパ文明”は終わった。

そして、15世紀時点で島に残ったのは、極地環境に適応したトゥーレ文化=イヌイット社会である。ここに、グリーンランド史の核がある。環境に合わせて文明を組み替えた側が残り、環境に自分たちの文明を合わせようとした側が消えた。グリーンランドは、人類史の「適応の勝敗」を、最も分かりやすく見せる場所の一つとも言えます。

グリーンランド15世紀最後の記録

アイスランドに残る教会文書に、次のような記録があります。

  • 時期:1408年
  • 場所:グリーンランド東方植民地の教会(フヴァルセイ教会とされる)
  • 内容:ソルステイン・オラフソンシグリズ・ビョルンスドッティル の結婚

この記録は後にアイスランドへ渡った船によって伝えられ、アイスランドの教会台帳に写されました。

これが、グリーンランド北欧人社会の「最後の確実な生存記録」です。

 イヌイットだけの世界へ(15~17世紀)

ヴァイキング入植者が姿を消した後のグリーンランドには、イヌイット(トゥーレ文化を継承する人々)だけが残されていました。

彼らはすでに数世紀前からカナダ北極圏を経てこの地に到達しており、極寒の自然環境に高度に適応した生活様式を完成させていました。

犬ぞりやカヤックを駆使して海氷の上を移動し、アザラシやセイウチ、クジラなどの海獣を主な食料源とし、その脂肪と肉によって長い冬を生き抜いたのです。

国家や都市、貨幣経済を持たない小規模な移動社会ではありましたが、自然との均衡を保ちながら安定した生活を送り、グリーンランドは数百年にわたり外部世界とほぼ隔絶された「イヌイットのみの土地」となりました。

デンマーク=ノルウェーの再進出(18世紀)

18世紀になると、ヨーロッパ世界が再びグリーンランドに関心を向け始めることになりました。

1721年、ノルウェーの宣教師ハンス・エーゲデがデンマーク=ノルウェー王国の支援を受けて渡航し、再植民を開始しました。

彼の目的は、失われた北欧入植者の末裔を探し出してキリスト教に復帰させること、そして王国の領有権を再確認することでした。

しかし実際に出会ったのは、すでにこの地の唯一の住民となっていたイヌイットだったのです。

以後の進出は軍事的征服というよりも、宣教、交易、医療の提供を通じて徐々に影響力を拡大する形で進められ、グリーンランドは次第にデンマークの支配圏へと組み込まれていきました。

植民地としての制度化(19世紀)

19世紀に入ると、グリーンランドは正式にデンマークの植民地として制度化されることになりました。

交易は王室の独占会社が管理し、イヌイットの移動生活は制限され、沿岸部の定住集落へと集められていきました。

学校と教会が建設され、デンマーク語教育とキリスト教化が進められ、伝統的な宗教観や社会制度は次第に否定されていきました。表向きは「保護」と「文明化」を掲げた政策であったが、その実態は経済的従属と文化的同化であり、イヌイット社会は急速に変質していくことになりました。

終わりに(結論・まとめ)

グリーンランドの歴史は、単なる辺境の物語ではありません。

古代には、農業も国家も持たない先住民が環境と調和する文明を築き、
中世には、ヴァイキングがヨーロッパ文明を持ち込みながら環境に適応できず消滅し、近代においては、植民地化と同化政策の中で先住民社会が大きく変質していったのです。

かつて「緑の土地」と名付けられたこの島は、
今や人類の文明の適応力、国家の盛衰、そして21世紀の国際秩序そのものを映す鏡となっています。

次回、近代化を遂げたグリーンランドが現在どのような状況になっているのか詳しく紹介していきます。

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