これまで、日本酒について深く紹介していきましたが、今回は普段私たちが口にしている日本酒の味について詳しくみていきたいと思います。
実は、日本酒は辛みや甘みというのは蔵ごとに異なることはもちろん、アルコールの割合や温度など繊細に味わいがことなります。
日本酒には、日本酒度(SMV:Sake Meter Value)という項目があり、それがどのように蔵ごとに変化しているのか 説明していきますね!
甘口、辛口とは?

一言で言ってしまえば、日本酒の比重の違いです。
具体的には、
・日本酒の中の糖が割合として多い → 液体の比重が重い
→ 日本酒度はマイナス(甘口)へ
・日本酒の中の糖が割合として糖が少ない → 比重が軽い
→ 日本酒度はプラス(辛口)へ
となっております。
※なぜ、比重が重いとマイナスになるのか
日本酒度(SMV)は「水を0」とした比重計の読みで、
水より重い=沈むほど数字がマイナス方向に動く“目盛り設計”になっているためです
何が甘みや辛さを左右させているのか
① 糖化とアルコール化の割合
・麹歩合が高い
糖化が進むことで、 甘みが増します。その結果 日本酒度はマイナス側になり、甘みが強い日本酒に分類されます
②酵母の発酵力が強い
糖がどんどんアルコールに変化していくことで、日本酒の中に含まれる糖は少なくなり、辛口の日本酒に分類されます
③発酵温度が高い
酵母活性が上がることで、糖からアルコールに変化しやすくなります。その結果辛口の日本酒に分類されるようになります
④アルコール濃度の変化
アルコールは水より軽い比重(約0.79)なので、
アルコール度数が上がることで、液体は軽くなり日本酒度はプラス(辛口)に働きます
⑤アミノ酸・有機酸などの溶け込み
アミノ酸や有機酸は比重を重くするので、
- アミノ酸・酸が多い → 比重上昇 → 日本酒度はマイナス(甘口)に変化します
特に山廃・生酛はアミノ酸が高くなりやすく、その分SMVが低めになります
⑥加水(割水)による調整
出荷前の加水量で比重が変わります。
加水が多い ことで、アルコール濃度低下し日本酒度はマイナスへ動く可能性
逆に、原酒はアルコールが高いため、同じ糖度でも日本酒度がプラスになりやすいです
日本酒の主要な種類(製法での分類)
① 生酒(火入れなし)
特徴
- 特徴火入れ(加熱殺菌)を一度もしていない
- 要冷蔵(酵素反応・微生物活性の抑制が必要)
- 失活していない酵素(プロテアーゼ・アミラーゼなど)が残存
- 酵母も微量に生きていることが多いです
→そのため、時間と温度で酵素反応が進むことで風味や味の変化を楽しむこともできます
- フレッシュ・瑞々しい香り、爽やかな味と表現されることが多い
- 火入れや貯蔵中の攪拌で抜けるCO₂が、生酒では残りやすいことで、微発泡酒のようなさわやかな味を楽しむことができます
火入れすると、メイラード反応、フェノール類の酸化、脂肪酸の熱分解が起こることで、火入れ独特の落ち着いた香り(熟成感)が出ます。
生酒ではこれが無いため、
→ 香りがシャープで軽快になります
② 生貯蔵酒(貯蔵時は生、出荷前に火入れ)
特徴
- 貯蔵中は生酒のようにフレッシュ
- 出荷前に1回だけ火入れして安定化
→ 痛みが少なく、香味が一定に保たれます
したがって、安定性とフレッシュさの両立を楽しむことができます
③ 原酒(割水なし)
特徴
- 醸造後に加水調整をしない
- アルコール度数が高め(18〜20%)になる可能性
※酵母の耐性限界付近 - 味わいが濃厚でボディが強い
④ にごり酒(粗濾過)
特徴
- 濾過を弱めて米の粒子を残すことで見た目は白く濁ったようになる
- 米の粒子が残ることで甘く、コクが強くなる傾向
⑤ 純米系(米・米麹・水のみ)
特徴
- 米の旨味・アミノ酸が出やすい
- ボディが厚く、重心の低い味
- 醸造アルコールを足さないことで、香味の主体は米由来の成分と発酵生成物
- 麹由来の酵素が活発なため、アミノ酸(特にうまみ成分)が多く生成されている
⑥ 吟醸系(高精白米+低温発酵)
■特徴
- 果実香(リンゴ・洋梨のような香り)が強い
- 軽やかで華やかな風味がある
温度による味の変化
日本酒は“香り物質の揮発”と“舌の甘味受容体の感受性”により温度で味が変わります。
① 冷酒(5〜10℃):香りが立つが甘味は抑えられスッキリ
(1)揮発性エステルの“蒸気圧が低下する → 香りが鋭く感じられる”
吟醸香の主成分
- 酢酸イソアミル
- カプロン酸エチル
は非常に低分子・低沸点(揮発しやすい)です。
しかし、5〜10℃という低温は
- 蒸気圧が低下 → 揮発がゆっくり
- 雑味成分(高分子・高沸点)はさらに揮発しない
その結果、エステルだけが選択的に立ち、シャープな香りになる
香りが“強調される”というより、“雑味の香りが抑制され相対的に強く感じるようになります
(2)甘味受容体(T1R2/T1R3)の温度依存性
甘味受容体は 低温で感受性が低下 する。
- 5〜10℃ → 受容体感度が弱くなる
→ 甘味が鈍く感じられる
→ スッキリした味に
アイスクリームが実際より甘く感じないのと同じメカニズムです
(3)酸味が立ち、全体が締まる
有機酸(リンゴ酸・乳酸など)は
低温で味が引き締まる(pH変化による受容性の変化)。
→ 甘味↓+酸味↑=スッキリします
② 常温:香り・甘味・旨味が最もバランスよく感じられる
(1)揮発速度が“ちょうどよい”
常温(約20℃)では
- エステル系の香り=適度に揮発
- 高沸点の雑味香=まだ過剰に揮発しない
→ 均整のとれた香りとなります
(2)甘味受容体がもっとも感じやすい温度
T1R2/T1R3受容体は20〜30℃で最も感度が良いことで、 甘味がはっきり感じられるようになります
(3)アミノ酸(旨味)が顕在化
うま味受容体(mGluR4/Umami-T1R1/T1R3)は常温で安定した反応で、米由来のアミノ酸(グルタミン酸・アラニン)が感じやすい
(4)粘度・テクスチャーが中庸
日本酒の粘度は
- 冷酒→やや高い(とろみ)
- 燗→低い(サラサラ)
常温は中間で、“しっとり・滑らか”になります
③ 燗酒(40〜55℃):旨味最大化・アルコール刺激減少・香りは丸く
(1)アルコール刺激が減る理由

エタノール刺激は TRPV1(辛味受容体)で発生するが、
40〜55℃では、エタノール蒸気が拡散し刺激が鈍くなります
また、
- 温度上昇でエタノールの蒸発が速くなる
- 飲む瞬間の“液中のエタノール濃度”が一時的に薄く感じれる
これらのことから、刺激が丸くなり、柔らかい口当たりになります
(2)旨味(グルタミン酸)が強く感じられる
グルタミン酸の“うま味強度”は温度依存性があります。
約40〜60℃で人間のうま味受容体の感度(mGluR4・T1R1/T1R3の最適域)が最大であり、燗酒はグルタミン酸の旨味が顕著に感じられやすい
※出汁(昆布だし)が温かいほど旨味を強く感じるのと同じ現象です
(3)アミノ酸由来の甘味が増える
温度上昇によって、
- アミノ酸の溶解度
- 味覚受容体の反応速度
が上がり、甘味・旨味が“ふくらむ”ように感じることができます
(4)香りが丸くなる(エステルの分解・飛散)
エステル(吟醸香成分)は熱に弱い。
40〜55℃では
- 揮散しやすくなる
- 分解速度が上がる
- 酵母由来の香り(吟醸香)が弱まる
それらの結果から、ほどよくエステル感がなくなることで穏やかな香り・丸さが出ます
(5)酸味がマイルドに
有機酸は温度上昇で“緩和方向”にシフトし、
→ 酸の尖りが消える
→ 全体がまろやかになります
医師としての推奨量(確実な公的基準)
もちろん、飲み会によっては多くのお酒を飲んでしまうことは自分も含めて多々ありますが、
実は、日本の“節度ある飲酒”は 純アルコール20g/日
→ 日本酒なら 1合(180mL)程度
(アルコール度数15%で計算)
となっております。
日本酒を選ぶコツ(初心者〜上級者別)
最後に、これらをまとめて日本酒を選ぶコツをまとめていきます
▼ 初心者
- 純米吟醸が最もバランス良く飲みやすい
- フルーティーで香りが強い(エステル由来)
- アルコール感が苦手な人は熱燗で少しずつ飲むと酔いが回りにくく味を楽しめます
▼ 中級者
- 生酒・原酒・無濾過生原酒
- 風味の変化が大きく、味の違いを楽しめる
- あまり、出回っていないため、直接酒蔵や卸売り業者のところに行って、探すことが必要になってきます
▼ 上級者
- 山廃 / 生酛(きもと)
→ 乳酸菌と酵母の共生による複雑な旨味(生酛系乳酸発酵) - ぬる燗〜上燗で旨味のピークが出ますので、人肌やや暖かい程度にして飲むのがおすすめです
※今日から使える豆知識 なぜ国税庁が酒を指定しているのか
以下は 「なぜ“国税庁”が日本酒(清酒)の基準・分類・表示ルールを決めているのか」 を、歴史的・法律的なことを解説していきます。
結論
日本酒は「酒税」の対象=税金の対象のため、
その品質・分類・表示は“税を課す根拠”として国税庁(=税務を司る官庁)が管理している。
つまり
日本酒の分類は“税法”で決まる → 管理者は国税庁
という理由です
酒類には「酒税(さけぜい)」がかかる
日本では
- 日本酒
- ビール
- 焼酎
- ワイン
- ウイスキー
などすべて「酒類」として 酒税法の課税対象です
酒税は国税であり、所管は 財務省(国)→ 国税庁になっております
税金を正しく取るには“分類”が必要
酒税は
- 種類(ビール/日本酒など)
- アルコール度数
- 製法
によって税率が変わります。
正しい税をかけるためには、
「これは清酒(日本酒)か?」
「吟醸か普通酒か?」
「原料は何か?」
といった 定義を法的に明確にしておく必要があります。
そのルール作りをするのが 国税庁です。
③ 日本酒の分類(特定名称酒)は“酒税法の一部”
日本酒の
- 吟醸
- 大吟醸
- 本醸造
- 純米
などを決めている基準は
国税庁告示「清酒の製法品質表示基準」です。
これは「酒税法に基づく表示ルール」であり、
税務行政の一環として国税庁が作っています。
④ 歴史的背景:江戸時代から「お酒=財源」
江戸時代には
- 酒株制度
- 醸造免許
- 酒造税
など、酒は主要な財源として幕府が管理してきました。
明治以降も
- 免許制度
- 酒税
- 製法規制
は「国の財源確保」のため継続し、
これを引き継いだのが 国税庁(1949年設立)でした。
⑤ 現在でも酒税は国の重要な収入
近年は割合は減ったが、それでも数千億円規模の国税収入。
そのため酒類の
- 免許
- 製造者管理
- 表示監督
はすべて国税庁が担当している。
※今日から使えないかもしれない豆知識
精米機による精米の方法
精米は「摩擦」と「時間」で行う。
● 砥石ロール式精米機(一般的)
- たくさんの米が円筒状ドラムの中で転がる
- 内側の砥石で少しずつ外側を削る
- 長時間かけて均一な削りにする
● 新式(低温精米)
削る際に摩擦熱が出るため、
冷却(送風)して温度上昇を防ぐ技術が重要。
→ 低温を維持しないと
- 酵素が変性
- タンパク質分解
- 酵母栄養バランス変化
などの品質低下が起こる“可能性があります”。
終わりに
いかがでしたでしょうか。
私たちが普段気軽に飲んでいる日本酒というのは、実は奥が深く様々な歴史・化学反応によって成り立っています。
それらをより詳しく理解することで、より自分に合ったお酒や日本酒の酒蔵に巡り会うことができます。
それでは、いい日本酒ライフを!
