並行複発酵について 初心者でも理解できる日本酒の基礎知識まとめ 日本酒編part.2

この言葉について、日本酒を飲む方でご存じだという方は素晴らしい好奇心の持ち主かと思います。

僕は少なくとも日本酒について調べるまで全く知りませんでした。

今回は、日本酒についての記事でpart2です。


並行複発酵について調べてきましたので、ご参考になれば幸いです。

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目次

1.並行複発酵とは?

でんぷん → 糖 → アルコール という2つの工程
①麹菌による「糖化(こうか)」
②酵母による「発酵」
同じタンク内で同時に起こる発酵方式 のこと。

日本酒・どぶろく・味噌・甘酒などにもみられますが、清酒造りが最も典型的な並行複発酵です。

2.なぜ「並行複発酵」は世界で珍しいのか?

結論

デンプンを“麹の酵素で糖に分解しながら、その糖を酵母が同時にアルコール発酵する”形式が、他の国では発展しなかったためです

世界の多くの醸造酒は 単行発酵(糖→アルコール) または
単行複発酵(糖化→後から発酵) が主流となっています。

世界の主流形式と比較

ワイン(ブドウ)、シードル(リンゴ)などは原料に最初から糖があるのでそのまま発酵できる単行発酵が主流です。

日本酒だけ「並行複発酵」が必要だった理由

世界の主食の中で、米は「デンプンの粒が非常に硬く、糖化が難しい」ため。

米は、①そのままでは糖がなく、②麦のように“麦芽の発芽酵素”も使えない、ことから、糖化と発酵を分業しても効率は良くありませんでした。

そのため、日本独自の「麹菌(Aspergillus oryzae)」を使う必要がありました。

この麹菌が非常に強力だったため、
糖化スピードが速い → 酵母が同時に発酵可能 → 並行複発酵が成立
となりました。

世界でも、麹菌を酒造に本格的に用いた文化圏は日本のみです。

3. 並行複発酵のメリット

① 高アルコール度数を自然発酵で出せる

  • 酵母はアルコール濃度が上がると活動が止まるが
    糖化が途切れず供給され続けるため、酵母がギリギリまで働ける。

その結果、18〜20%のアルコールが自然発酵だけで可能
これは、 世界でも極めて珍しく例えばワインは14%前後、ビール5%程度です
根拠:酒類総合研究所の酵母発酵曲線

② 複雑で深い旨味(アミノ酸・有機酸)が生まれる(香りや味)

麹菌が、タンパク質分解酵素と澱粉分解酵素を出すため、同時に多彩な成分が生成されます

 また、麹菌の種類によってさまざまな特徴があり、グルタミン酸などの旨味成分であったり、 リンゴ様香り(イソアミルアセテート)などの香り成分が生成されます。

そのため、風味や味に様々な違いがつくられるのです

③ 糖化と発酵の反応バランス調整が可能

同じ槽に入っているため糖化と発酵のバランスを、酒造りの職人技(温度・品温管理)によって、香りを引き出しやすい。

吟醸香の制御などはこの技術が肝になります。

4. 並行複発酵のデメリット

① 発酵管理が極めて難しい

糖化・発酵が同時 → 酵母と麹菌の反応速度が干渉しあうことで、発酵がうまくいかないことがある。

特に、麹菌の最適温度:35〜40℃前後であり、清酒酵母の最適温度:7〜15℃前後(低温発酵)であることから、職人の温度・品質管理が必須です。

② 汚染リスクが高い

  • 麹菌が強いとはいえ、乳酸菌・雑菌の侵入リスクが高い。
  • 酒母の管理(古くは生酛、現代は速醸酛)が非常に手間。

銀の匙でも話のネタになった、「納豆を食べた人は日本酒の工場内に入れない」というのは、こういう理由から言われているんですね!

 ③ 生産効率が低い

  • 温度管理が非常に繊細であること
  • 品質管理が近代まで職人に依るものが大きい

これらのことから、大量生産よりも酒場ごとの商品がつくられるようになりました

4. なぜ日本では「並行複発酵」が発展したのか?

①:日本固有の“麹菌”文化が成立していた

日本には古代より

  • 醤油
  • 味噌
  • 鰹節
  • 麹調味料
    など、麹を使う発酵文化が密接に存在していた。

この麹菌が

  • 強力な生産酵素群
  • 温度感受性
  • 大量の糖化能力
    を持っていたため「並行複発酵」が成立したといわれています。

②:米の性質が並行複発酵と相性が良かった

米のデンプンは

  • アミロース/アミロペクチンの構造がある
  • 表面のたんぱくの少なさ
    などにより、加水・蒸し加工→酵素での糖化に適した特徴があります

また、麦のように発芽させて麦芽にする文化は日本にはなかったため、
→ 麹菌が糖化担当
→ 酵母が発酵担当
と役割分担が進んだ。

③:湿潤な気候が麹菌の繁殖に適していた

日本の気候は湿度が高い ことから、 麹菌が定着しやすく、古代から麹が作りやすかったことが麹作りが発展したともいわれています。

④:歴史的に酒造りが“宮廷の管理下で発展”した

奈良から平安時代に

造酒司(みきのつかさ)が宮廷用の酒を製造しています。
この時に、厳密な技術管理が行われ、精密な発酵法が蓄積しました。
これにより精密な制御が必要な並行複発酵が発展したといわれています。

5. 日本酒=世界トップレベルの発酵技術

科学的に見て、日本酒は
「でんぷん質の食材から最も効率的に高アルコール酒をつくる技術体系」
と評価されています。

並行複発酵は

  • 高度な温度管理
  • 酵素学
  • 微生物制御
    を必要とするため、
    日本の発酵文化・長い歴史なしには成立しなかった方式と評価されています。

おわり

並行複発酵という日本酒独自の高度な発酵技術は、偶然に生まれたものではなく、日本の風土、米という原料、麹菌という微生物、そして日本の歴史の中で育まれた人の知恵が重なり合って完成した結晶だといえます。

私たちが何気なく口にしている一杯の日本酒の中には、微生物の働きと、人間の技術と文化が凝縮されています。

並行複発酵を知ることは、日本酒の味わいを深めるだけでなく、日本の発酵文化そのものを知ることにもつながります。

本記事が、日本酒をより深く楽しむ一助となれば幸いです!


◆ 根拠・出典

  • 独立行政法人 酒類総合研究所
  • 国税庁「麹菌の国菌指定」
  • 酒税法
  • Fermentation and Yeast Research, Brewing Science(発酵学の専門文献)
  • 国立民族学博物館 資料
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